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横田英史の読書コーナー

外来種は本当に悪者か? ~新しい野生 THE NEW WILD~

フレッド・ピアス、藤井留美・訳、草思社

2016.11.23  10:16 am

 「外来種は本当に悪者か?」。タイトルが秀抜でつい購入してしまった。自然は手付かずが一番、在来種は善、既存の生態系への乱入者である外来種は悪。何となくこんな考えにとらわれがちである。本書はこうした考え方に具体的な事例をもとに反論を加え、「外来種は間違いなく生物多様性を高めている」と結論付ける。この書評で以前取り上げた「『奇跡の自然』の守りかた~三浦半島・小網代の谷から~」に共通する考え方で、自然保護を考える上で貴重な視点を提供している。

 本書を通じて感じるのは人間の身勝手さである。そもそも外来種が移動するのは、コロンブス交換や船のバラスト水に交じるなど、人間の活動によるところが少なくない。しかも外来種が定着しやすいのは、ハリケーンや洪水、人間による開発などで生態系のバランスが崩れたところが多いという。

 例えば外来種は従来生物を押しやると非難されることが多いが、実際には従来種の減少でできた空きスペースにうまくはまっただけだったりする。

 外来種が新しい環境に定着することは、人間に痛めつけられた自然の復元力(レジリエンス)を物語っているというのが著者の見立てだ。外来種の到来は生態系がまだ死んでいないという何よりの証拠であり、既存の種を死守するのは目先だけの活動に過ぎず、外来種を積極的に認めるのが真の環境保護だと主張する。

書籍情報

外来種は本当に悪者か?~新しい野生 THE NEW WILD~

フレッド・ピアス、藤井留美・訳、草思社、p.336、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。