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横田英史の読書コーナー

《推薦!》戦争まで~歴史を決めた交渉と日本の失敗~

加藤陽子、朝日出版

2016.10.26  10:02 am

 歴史の面白さと奥深さ、歴史を学ぶことの大切さ、先入観をもつことの恐ろしさを感じさせる良書。太平洋戦争に突入するまでの史料を読み込むことで、日本は3回にわたって欧米から「世界の仲間入りを選ぶか」「孤立の道を選ぶか」と問われたが、判断を誤り戦争に突入したことを明らかにする。戦争突入までの通説が事実と大きく異なることに驚かされる。本書は、東大文学部教授の筆者が書店で6回にわたって中高生に対して行った講義をまとめたもの。分かりやすく現代史を説いており、多くの方にお薦めできる。危ういところに差し掛かっている今の時代に読むべき書である。

 筆者は日本政治や社会のもつ「非決定の構図」「両論併記」を槍玉に挙げる。このメンタリティによって国際環境や国内政治の変化に柔軟に対応できる反面、米国など長期的な視野で物事を進める国を相手にしたときに、一貫した態度をとることができない。その結果、支離滅裂になると喝破する。思い当たるフシのある指摘である。

 筆者がターニングポイントに挙げるのは三つ。一つは、満州事変に対して国際連盟によって派遣された調査団が作成したリットン報告書をめぐる交渉。報告書には日本に魅力的な提案も含まれていたにもかかわらず、世論を確信犯的にミスリードして国の舵取りを誤り孤立の道を歩んだ。

 第2は、日独伊三国軍事同盟条約の締結。ドイツ有利の戦局を考え、オランダやフランスがもつ植民地(蘭印仏印)を戦わずして得るための条約締結だったことを明らかにする。日本の軍部や官僚にとって、「目の前の欲しいもの」を得るための条約だった。第3が、戦争を回避するためになされた1941年4月から11月まで展開された日米交渉。交渉成立の可能性があったにもかかわらず陸海軍の妨害で決裂にいたる。筆者は、国体の破壊者としての軍の存在を厳しく糾弾する。

書籍情報

戦争まで~歴史を決めた交渉と日本の失敗~

加藤陽子、朝日出版社、p.480、¥1836

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。