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横田英史の読書コーナー

人間さまお断り~人工知能時代の経済と労働の手引き~

ジェリー・カプラン、安原和見・訳、三省堂

2016.9.8  11:30 am

 人工知能やロボット技術の進歩が人間の生活や社会、経済、産業、職業にどのような影響を及ぼすかを考察した書。人工知能の進展によって富の偏在が加速すると警鐘を鳴らすとともに、その解決策を提示する。筆者は人工知能研究の草創期にかかわった研究者で、その後ITベンチャーを起業し、現在はスタンフォード大学コンピュータ学部で人工知能の及ぼす影響と倫理について教えている。人工知能と社会のかかわりを論じるのにぴったりの人材と言える。このところ類書がどんどん出版されているが、21世紀の科学技術が国家の政策や同じ分野の研究者によってではなく、巨額の資金をもつ個人の好みによって、その方向性が決定されるようになっているといった筆者の鋭い主張には耳を傾ける価値がある。

 本書が扱う範囲は広い。株式の超高速取引(HFT)、インターネットの広告配信、自動運転、事故が発生したときの人工知能と人間の責任の所在、Amazonの送料無料の仕組みなどをカバーする。自動化はどこまで進むかについても言及している。ちなみに、人工知能における機械学習や移動式ロボットの進化によって、702の職業のうち47%は大幅に自動化されるという。

 本書の読みどころは、ブラックボックスになっている結果として、ありとあらゆる不正や詐欺が横行している電子の社会にいかに人間社会の公平・不公平の感覚を持ち込む方策を論じるているところ。知的機械は競争相手の人間を蹴散らす。人間の管理下にあるというのはただの建前でしかない。例えば知的機械は人間の生活を豊かにし、いっそうの繁栄をもたらし、余暇時間を増大させると言った、抵抗も否定もできないテクノロジーの利益は、不穏な真実を覆い隠していると手厳しい。

書籍情報

人間さまお断り~人工知能時代の経済と労働の手引き~

ジェリー・カプラン、安原和見・訳、三省堂、p.272、¥2700

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。