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横田英史の読書コーナー

ヨーロッパから民主主義が消える~難民・テロ・甦る国境~

川口マーン惠美 、PHP新書

2016.8.3  8:27 pm

 英国のEU離脱「Brexit(ブレグジット)」を生んだ背景の一端を知ることができる新書。著者はこう語る。「民主主義の理想を掲げたEUは、どこかで道を誤った。それどころか、国境線の内側に閉じこもる、理念とは矛盾した加盟国の姿がある」「ヨーロッパは一つを達成するどころか、自国の暮らしを守りきれなくなる危機感から、人々は反ヨーロッパに向かっているようにみえる」「難民問題がEUを破壊する」と。
 著者が在住しているドイツを中心とした視点で書かれており、バイアスを感じるところもあるが、日本では知ることができない深層に迫っているのも事実。基礎知識として読んでいても悪くない新書である。
 著者は冒頭で、EU設立に至った道を簡単に振り返る。教科書的な内容だが、頭を整理できる。役立ち感があるのはEUという組織の概要や内実に迫る第2章だ。とりわけ補助金の仕組みと規制の内容は興味深い。例えば、補助金を上手に使って飛躍を遂げたポーランドと、底の空いたバケツのごとく放蕩を続けたギリシアの対比は実に面白い。このほかギリシアについては、急進左派連合が圧勝したときの国状や国民の心境が、ヒトラーが台頭したときのワイマール共和国と似ている語る。
 本書の白眉はドイツについて語る部分である。「強すぎるドイツ」も内実はボロボロ、節制の行き過ぎでかなり綻びが出ている、お題目通りに機能しないドイツ基本法、難民問題については倫理観だけを前面にかざし、自己礼賛とともに、理性をかなぐり捨てたドイツ国民の性癖など、定点観測しているだけに読み応え十分である。

書籍情報

ヨーロッパから民主主義が消える~難民・テロ・甦る国境~

川口マーン惠美 、PHP新書、p.222、¥864

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。