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横田英史の読書コーナー

ビッグデータ・ベースボール~20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法

トラヴィス・ソーチック、桑田健・訳、KADOKAWA/角川書店

2016.7.25  8:22 pm

 大リーグ(MLB)が組織として、これほど質量ともに充実したデータを日常的に収集しているのだと驚かされる書。日本のプロ野球との差は極めて大きいことが思い知らされる。本書は、20年連続で負け越していたピッツバーグ・パイレーツがデータに基いてチームを強化し、優勝に行った経緯を詳細に紹介している。たとえば守備位置に移動(昔で言えば王シフト)、ボールをストライクにしてしまうキャッチングの重要性など、野球好きにはたまらない話が多く出てくる。野球好きだけではなく、いま流行りのビッグデータやデータサイエンスに興味がある方にお薦めの書である。
 MLBでは、ここまできめ細かくデータを集めており、しかもオープンにしていることに正直驚く。例えば、ボールの速度や軌道、3次元での位置、投手の腕の伸び、バットスイングの速さ、バットに当たった打球の速さ、投球の1球ごと横と縦の変化の数字のなどを計算するPITCHf/fxは、2007年から一部の球場に設置されてリアルタイムで投球データの収集を始め、2008年には全球場に導入された。しかも一般のファンに公開されている。EISの読者の皆さんには、ぜひ本書を読み、ビッグデータの最前線に触れて欲しい。
 ビッグデータを単純に勝利のために活用するだけではなく、選手の故障予防にも活かそうという試みに活用するという動きは嬉しい。ちなみにチーム強化と言えば、映画にもなったアスレチックスの「マネー・ボール」が思い出されるが、この12年で大リーグは確実に進歩している。ITを取り入れる進取の気性はさすがである。

書籍情報

ビッグデータ・ベースボール~20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法

トラヴィス・ソーチック、桑田健・訳、KADOKAWA/角川書店、p.375、¥2052

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。