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横田英史の読書コーナー

粉飾決算~問われる監査と内部統制~

浜田康、日本経済新聞出版社

2016.6.3  9:57 am

 帯には「東芝の不適切会計問題が浮き彫りにした会計システムの課題」とある。東芝の粉飾決算を扱った書のように思えるが、筆者が取り上げるのは東芝に限らない。長銀、三洋電機といった過去の粉飾決算の事例をたどり、組織ぐるみの「隠蔽」「責任逃れ」の実態、なぜ裁判で経営者は罪に問われなかったのか、なぜ監査法人は粉飾を見抜けなかったのかを明らかにし、日本における内部統制や監査の問題に迫っている。

 長銀、三洋電機、東芝の事件についてたぷりと紙面を割き、徹底的に分析しており役立ち感がある。しかも解説が分かりやすく、さほど会計の専門知識がなくても読み通せる。ビジネスパーソンとしては押さえておきたい1冊である。

 第1章は長銀の粉飾事件を取り上げる。ここでは、最高裁の判決から「なぜ経営者は罪に問われなかったのか」について、会計実務と司法判断のギャップという視点から論じる。最高裁判決が世の中の考え方に方向づけを与えてしまうものならば、会計に関する事項について、もう少し慎重に扱ってほしかったと語る。

 第2章は三洋電機。関連会社の減損について独自ルールを設け、損失を意図的に先送りした。さらに減損を避けるために5年累損解消計画をという事業計画を利用した。正式な3年事業計画の各年の数字を水増ししたうえに、そのまま右肩上がりに4年目、5年年目の数字を置いて作られたという。このほか調査報告書と大阪地裁の判決についても疑問を呈している。三洋電機事件を長いスパンで追って総括しており読み応えがある。

 第3章は東芝である。個別案件を一つひとつ詳細に分析して、原価操作の実態を明らかにする。「監査人の審査の品質に疑問を抱かざるをえない」「巨額な原価低減策を幹部全員があてにし、『自分以外の誰かがやるはずだ』と無責任な期待を持ち続けることで、傷口を広げた」「当事者全員が、自分の在任中は火を吹かないでくれとばかりに見て見ぬふりをし、後任者への先送りを繰り返してきたとしかみえない」と厳しく批判する。

書籍情報

粉飾決算~問われる監査と内部統制~

浜田康、日本経済新聞出版社 、p.472、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。