Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

《推薦!》「奇跡の自然」の守りかた~三浦半島・小網代の谷から~

岸由二、柳瀬博一、ちくまプリマー新書

2016.5.30  9:55 am

 三浦半島の小網代の保護を実践した著者が、自然保護の在り方を論じた書。源流から海までの生態系が自然のまま残されている小網代での実践に基いているだけに、「自然保護とは何か、どうすべきなのか」を具体的に知ることができる。何も手を入れないことが自然保護だとする考え方の誤りも分かる。東京から京急・三崎口までは少し時間が掛かるが、ぜひ自分の目で小網代の自然を見て欲しい。実際に見ると、本書の意味がよくわかる。ちなみに著者の一人は評者のグループ会社の人間である。この書評にバイアスが皆無とはいえない点は、予め断っておく。

 筆者が小網代を初めて訪れたのが1983年。珍しい生き物が貴重と言うのではなく流域まるごと保護が大切、開発する企業や自治体を悪者にせず一緒にやっていきましょうと歩み寄る、「開発反対!」とは言わず「開発は賛成です」と言う、ゴルフ場には反対だが開発には賛成、反対デモはいっさいやらない、反対が得意なだけの政治家や団体には声をかけないといった考え方で活動を続け、2014年7月の開園にこぎつけた。

 小網代における自然保全の方法は目からウロコである。例えば森には定期的に人が入り、水の流れから湿原や木々の生え方まで「手入れ」する。さらに時には大胆に木を切るし、人工の木道を上流から河口まで1本通す。筆者は、「自然保全=手付かずではない」ことの理由を懇切丁寧に説明している。

書籍情報

「奇跡の自然」の守りかた~三浦半島・小網代の谷から ~

岸由二、柳瀬博一、ちくまプリマー新書、p.201、¥950

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。