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横田英史の読書コーナー

驚くべき日本語(知のトレッキング叢書)

ロジャー・パルバース著、早川敦子・訳、集英社インターナショナル

2014.5.27  10:20 am

 英語、ロシア語、ポーランド語、日本語をマスターしている日本在住の米国人作家・劇作家が、自らの経験を基に日本語の魅力や可能性について語った書。筆者はまえがきで、日本語は読み書きこそ難しいが、学ぶには最も平易な言語だと語る。巷間言われているような曖昧な言語ではないと断言し、日本人の思い込みを否定する。筆者は日本語の国際語としての潜在力を高く評価する。例えば筆者の研究対象である宮沢賢治の著作を中心に、日本語の柔軟性や響きの美しさを論じている。牽強付会と思える箇所もあるものの、なるほどと思わせる指摘が少なくない。外部から指摘されて日本語の可能性を認識するのも情けないが・・・。
 他言語に見られない特徴の一つは、日本語の表現力が語彙の数ではなく、同じ言葉の語尾変化によって生まれているところ。「てにをは」を使うだけで、単語を主語にしたり、目的語にしたりできる。他の言語に比べて動詞の変化や時制がきわめてシンプルで、外国人にとって習得しやすいという。日本が曖昧という誤解については、日本語は文脈(状況)を理解すればその意味するところは明確と断じる。むしろ日本語の曖昧な表現は、「自己主張による衝突を和らげる芸術」とまで持ち上げる。筆者は擬態語、形容詞、敬語を俎上に上げながら、日本語の柔軟性と簡潔さ、魅力を説いている。響きの美しさや書き文字の視覚的効果については評者も同感だ。ひらがな、カタカナ、漢字を適切に配置した文章は、高いデザイン性を備えている。

書籍情報

驚くべき日本語(知のトレッキング叢書)

ロジャー・パルバース著、早川敦子・訳、集英社インターナショナル、p.192、¥1080

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。