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横田英史の読書コーナー

<推薦!>天才と異才の日本科学史:開国からノーベル賞まで、150年の軌跡

後藤秀機、ミネルヴァ書房

2014.5.20  1:06 pm

 幕末期から現在(山中教授)までの日本の科学史を担ってきた科学者たちを、筆者独自の視点で解説した書。さほど期待せずに購入したが、予想外に面白く筆者の世界につい引きこまれてしまった。いきなり登場するのが福沢諭吉、さらに夏目漱石と続く。“科学史”というタイトルを初っ端から裏切ってくれる。この意外性が本書の魅力である。いま話題の理化学研究所は随所に登場し、その歴史をおさらいするのに役立つ。ちなみに小保方晴子氏にも注釈で言及する。初版が2013年9月なので、2014年3月に行った2刷で急きょ挿入したのだろう。小保方氏を取り上げる是非はともかく、そのサービス精神は買える。多くの方にお薦めできる、ミネルヴァ書房らしさが出た良書である。
 筆者は科学者たちの交友関係をはじめとしたエピソードを縦横無尽に紹介する。福沢諭吉が登場したかと思えば、伊藤博文や森鴎外、乃木希典、宮沢賢治、新島八重まで引き合いに出す。科学者たちが、どういった時代背景のもとで活躍したかが分かり、人物像に奥行きをもたらしている。
 本書は5部構成をとる。例えば第1部は「日本科学の夜明け」と題し、北里柴三郎、高峰譲吉、長岡半太郎らが登場する。科学者だけではなく福沢諭吉など同時代の異能者たちにもスポットライトを当てる。北里柴三郎が第1回のノーベル賞候補に挙がりながら、「黄色人種はふさわしくない」として除外されたという、評者は、欧米に大きく後れを取っていた日本の科学者が、苦心惨憺してのし上がう様子を描いた第1部が最も印象に残った。

書籍情報

天才と異才の日本科学史:開国からノーベル賞まで、150年の軌跡

後藤秀機、ミネルヴァ書房、p.404、¥2700

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。