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横田英史の読書コーナー

ファミコンとその時代~テレビゲームの誕生~

上村雅之、細井浩一、中村彰憲、NTT出版

2014.4.18  12:00 am

 任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)の設計思想と開発、発売までの経緯、その後の爆発的ブームと終焉を、ビジネスモデルや社会的インパクトを絡めながら学術的に論じた書。昔懐かしいゲーム機やソフト、世相が次々と登場する。最大のポイントは、開発責任者だった上村雅之(立命館大学客員教授)が執筆に加わっているところ。上村は第Ⅰ部「テレビゲームの誕生」で、数々の資料を使いながら開発秘話などを紹介している。6502をCPUとして選んだ理由やファミコン回収の経緯など興味深い話が満載である。ファミコンだけではなく、ゲーム&ウォッチの開発物語やゲーム機の開発体制の変遷といった話も悪くない。上村が執筆した100ページあまりを読むだけでも価値がある。組み込み技術者にお薦めの1冊である。
 上村の論考では、「アタリショック」やファミコンで起こった数々のトラブルの分析も面白い。アタリショックは粗悪なゲームソフトが横行した結果、販売不振に陥ったという理解が一般的だ。しかし上村は、グラフィックス性能という技術面の問題を指摘する。技術者としての上村の面目躍如である。トラブルの話には技術の香りして面白い。トラブルに見舞われたのは入力用コントローラと表示用LSIである。前者はユーザーの想定外の“押し方”が原因でボタンに不具合が頻発した。後者はNMOSの発熱による“消える白線”問題で、全量を回収することになったという。
 後半の第Ⅱ部では立命館大学教授が、産業論「ファミコンとゲーム産業の確立」と文化論「ファミコンの社会的影響と需要」を展開する。産業論ではファミコン成功の要因を分析。任天堂の成功は、「サードパーティがプラットフォームメーカー認証によりゲームを開発する」というエコシステムを図らずも構築したことによると指摘。文化論ではゲームが社会にどのように受け入れられていったかを明らかにする。例えば、ゲーム専門誌の創刊、ドラクエ攻略本の大ヒット、ゲーム・クリーエーターやゲーム音楽作曲者への社会的評価、“ゲーム名人(例えば高橋名人)”の登場など、あの時代を思い出せてくれる話題に溢れている。

書籍情報

ファミコンとその時代~テレビゲームの誕生~
上村雅之、細井浩一、中村彰憲、NTT出版、p.279、¥2,808

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。