横田英史の読書コーナー
国際メディア情報戦
高木 徹著、講談社現代新書
2014.4.4 12:00 am
NHKのディレクターで「戦争広告代理店」の著者が12年ぶりに上梓したノンフィクション。国際政治の世界で繰り広げられる虚々実々の駆け引きを取り上げる。自らの主張を認めさせるために、どういった手段を用い演出を凝らすかを、オバマ大統領やビンラディンのメディア操縦法、ソチ・オリンピックに込めたロシアの意図、日本が東京五輪の招致で勝てた理由など、具体的な事例を挙げて紹介する。現代社会のメカニズムや常識を知る上で多くの方に読んでほしい良書である。
筆者は、現代の国際政治のリアリティは、自らの倫理的優位性をメガメディアを通じて世界に広めた者が勝つことだと断じる。「民主主義を大切にする世界では、情報は外に出すもの、秘密であってもいずれ出てくるというのが基本である。国民も政府も、それらの情報とどう向き合うかが問われる。テレビ、インターネットなどメディアが発達する現代においては、重要な情報こそ外部に発信し、それを武器として自らを有利に導くことが、国際社会で生き残るうえで不可欠」と語る。
本書は、こうした情報戦の裏側を、マスメディアやPR会社、代理人の活動を通して描き切っている。冒頭で紹介するのはボスニア紛争。ボスニア・ヘルツェゴビナ政府がどのように国際社会に訴え、ボスニア政府に対して有利な状況に持ち込んだかを詳述する。ここで登場するキーワードがサウンドバイト、バズワード、サダマイズ。これらは、現在の国際メディア戦の基本テクニックだという。
書籍情報
国際メディア情報戦
高木 徹著、講談社現代新書、p.264、¥864
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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