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横田英史の読書コーナー

現場主義の競争戦略~次代への日本産業論~

藤本隆宏、新潮新書

2014.1.30  12:00 am

 製造現場の視点から日本の産業と競争力を論じた書。筆者は、日本経済は「夜明け前」の状態にあり、悲観する必要はまったくないと断言する。数字だけの経営分析やマスメディアの「産業悲観論」は、日本の製造現場の実力を正しく評価できていない。現場は沈黙の臓器であり、会社にも社会にも自己主張しないから、本社もマスコミも官界も政界もこれを軽視する。日本社会は目を覚まさなければならない。本社は有能なグローバル人材を集めた J リーグ方式、現場は国別対抗戦のオリンピック型 。本書には、実証経営学の第一人者の藤本東京大学教授らしい主張が並ぶ。
 「現場の匂いがしない日本経済再生策は本物ではない」「良い現場は国内に残すべき」「現場がよい設計の流れを作らない限り、政府の投資奨励も助成も期待した付加価値を産まない」といった傾聴すべき指摘が多い。組み込み業界の読者の方々に向く1冊である。擦り合わせ型、能力構築競争、トヨタの現場といった藤本節にどっぷり浸ることもできる。ちなみに本書は、2010年、2012年、2013年に行った経済倶楽部での講演をベースにしたこともあって読みやすい反面、論理の展開に荒っぽさを感じさせる部分も残っている。
 筆者は2013年の講演で、次の20年をこう予測する。日本の優良現場にとって、最もハンデの厳しい最悪の時期は終わりつつある。第1の理由は、新興国と先進国の賃金格差が縮小しつつあり潮目がかわったから。第2は、日本の国内工場の多くが、まだ生産性を上げる伸び代を残している。むしろ、良い現場は逆境と戦ってきた結果、生産性やリードタイム、製造品質といった競争力は以前よりも強くなっている。現在は夜明け前であり、それを永久に続く暗闇だと見誤っている本社は覚醒しなければならないと檄を飛ばす。

書籍情報

現場主義の競争戦略~次代への日本産業論~
藤本隆宏、新潮新書、p.221、¥756

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。