Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

劣化国家

ニーアル・ファーガソン、櫻井祐子・訳、東洋経済新報社

2014.1.29  12:00 am

 ハーバード大学の歴史学教授が、「なぜ豊かな欧米諸国が貧困へと逆戻りするのか? 」という命題に対して、政治、経済、法律、社会の角度か衰退の原因と先進国の将来像に迫った書。切り口が鋭く、なかなか刺激的な内容である。例えば、政府の複雑すぎる規制が治療法を装っているものの、じつは病そのものであり、おろしく長く入り組んだ法を作る者たちが危険なのだと主張する。中国との対比も興味深い。いったん衰退した中国が急成長している状況を、西洋と東洋の再収斂の始まりと表現する。中国は、西洋文化の「キラー・アプリケーション」のほとんど(経済競争、科学革命、現代医学、消費者社会、労働倫理)をダンロードしたことが、躍進の原動力になっていると見る。
 本書は BBC ラジオ の番組「リースレクチャー(Reith Lecture)」が2012年に著者を招いた際の講義をベースに書籍化したもので、ハードな内容を平易に解説している。ちなみに、この番組にはこれまで、バートランド・ラッセル、ロバート・オッペンハイマー、ジョン・ガルブレイスなど、そうそうたる面々が登場しているという。
 序章で筆者はこう述べている。停滞も成長も、その大部分が「法と制度」が招いた結果だというアダム・スミスの洞察にひらめきを得て、本書を執筆した。スミスの時代の中国についていえたことが、いまの時代の西洋世界の大部分に当てはまるというのが、本書の中心的主張だ。問題は、西洋の法と制度にある。目下の不況は、より深刻な「大いなる衰退」の一症状でしかない、と。筆者は、アダム・スミスの『国富論』をはじめとして、多くの知識人の主張を織り交ぜて主張を肉付けする。

書籍情報

劣化国家
ニーアル・ファーガソン、櫻井祐子・訳、東洋経済新報社、p.201、¥1,680

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。