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横田英史の読書コーナー

司法権力の内幕

森炎、ちくま新書

2014.1.27  12:00 am

 裁判官経験者の筆者が体験を基に、日本の裁判所の組織的な歪みと司法制度の問題を糾弾した書。裁判官たちが、どういったプレッシャーにさらされながら判決文を書いているのかについて、筆者自身のエピソードを交えながら紹介する。裁判所内の内実が分かり唖然とする場面が少なくない。異端とされた判決を下した裁判官たちのその後を追ったエピソードはなかなか興味深い。司法の世界で異端児が生きにくいことがよく分かる。新書らしくコンパクトにまとまっており、人質司法、冤罪、不当判決、形式的な死刑基準といった、日本の司法制度の問題点をざっと知るのに向く。ただし少し気取った感じの文章は好き嫌いが分かれるかもしれない。
 自ら体験しただけあって、裁判所の組織や人事制度への批判は鋭い。筆者自身に対する不可解な配属に始まり、下克上の組織、バラバラな人間関係、検察との腐れ縁、形骸化する裁判官の独立、服従のメカニズムなど具体的に問題点を一つひとつ指摘する。さらに、冤罪を生み出す組織的欠陥や法律無視の身柄拘束が起こる背景といった、読者の関心が高そうな話題を次々に取り上げる。新書としてやむを得ないところは理解するが、いくつか取り上げている冤罪事件などの判例が表面的すぎるので、少し物足りなさが残る。もう少し突っ込んでも良かったのではないか。

書籍情報

司法権力の内幕
森炎、ちくま新書、p.222、¥798

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。