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横田英史の読書コーナー

産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~

文藝春秋

2013.7.23  12:00 am

 2012年6月放送のNHKスペシャルを単行本化したもの。リアルタイムで番組を見られなかったのが残念である。本書は読むと切なくなると同時に、不妊に関する知識の欠如を思い知らされる。英国の大学教授は、「日本は不妊についての正しい知識が不足しているうえに、不妊について話すことを避けてきた。そのことが新たな不妊を次々に生んでいる。このままでは日本は次の世紀を生き延びることができない」と警鐘を鳴らす。この発言がけっして大げさでないことが本書を読むとよく分かる。日本社会の問題点に鋭く切り込んだ良書であり、多くの方に読んでもらいたい。
 日本は世界一の不妊治療大国である。しかし不妊治療の成功率は突出して低く、世界最低レベルである。原因は治療を受ける女性の年齢の高さと、どんな患者も断らない日本の医師の特質にあるという。卵子は30代後半から確実に老化する。しかも老化を止める方法はない。例えば企業でキャリアを積んで、「そろそろ子どもを」と考え30代後半に不妊治療クリニックの扉を叩いても、「すでに卵子が老化していて、治療をしても妊娠が難しい」ことが多いという。「もっと若いうちに正しい知識がちょっとでもあったら、今は隣に子どもがいたんじゃないかなって・・・」という発言は辛い。
 男性にも苦言を呈している。WHOによると不妊の原因の約半分は男性によるもの。しかしプライドが邪魔をし、検査を受けることを先延ばしにする。その間に卵子の老化が進み、妊娠のチャンスを逃すといった事態が続出する。考えさせられる内容が満載の書である。

書籍情報

産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~
文藝春秋、p.259、¥1,470

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。