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横田英史の読書コーナー

のめりこませる技術~誰が物語を操るのか~

フランク・ローズ、島内哲朗・訳、フィルムアート社

2013.7.19  12:00 am

 さほど期待せずに読み始めた本が、意外にも“当たり”だった経験が1年に何回かある。本書はそんな1冊だ。米WIRED誌の編集者兼ライターでIT業界に詳しい筆者らしく、テレビや映画といったエンタテインメントのほか、広告、ゲームなどの製作者が、どのような工夫や仕掛けによってユーザーがのめり込むコンテンツを作り出してきたかを、ソーシャルメディア論や脳神経科学の知見を交えながら論じている。ユーザーはコンテンツの物語に参加し、コンテンツの世界で居場所を見つけ行動を始める。そして次第に深くのめり込んでいく。ここでのポイントは、いかに参加させ、共感を生み、楽しませるかである。事例が具体的かつ身近で、説得力に富んだ良書である。
 本書の魅力は映画、TV、広告、本、ゲームなどの具体的コンテンツをピックアップして、詳細に分析していることろ。例えば映画では『アバター』『スター・ウォーズ』『ダークナイト』『A.I.』。ゲームでは『シムピープル』『ミスト』、TVでは『ロスト』『ヒーローズ』、マーケティングでは『Nike+』などを取り上げる。これらが消費者を引きつけた理由を、歴史的背景とソーシャル化の進むトレンドを踏まえ論じる。内容が多様で気づきが多い。ちなみに筆者は、日本のオタク文化とそれを育てた日本の出版社(メディア)に高い評価を与えており興味深い。

書籍情報

のめりこませる技術~誰が物語を操るのか~
フランク・ローズ、島内哲朗・訳、フィルムアート社、p.439、¥2,310

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。