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横田英史の読書コーナー

イノベーションを実行する~挑戦的アイデアを実現するマネジメントから

ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル、吉田利子・訳、NTT出版

2013.6.3  12:00 am

 イノベーションを組織として成功させるためのノウハウを紹介した経営書。類書が多く競争の激しい分野だが、本書は豊富な事例を含め実践的で読み応えがある。ダートマス大学の教授2人が10年をかけて行った調査研究をもとに、イノベーションを生み出す組織の在り方を論じている。アイデアを実現するマネジメントのスキルだと語る。原書が出たときに話題を呼んでいたので気になっていたが、ぐずぐずしているうちに半年前に翻訳本が出てしまった。米国で評価が高かったのも頷ける内容である。主に幹部クラスのマネジメント層にお薦めしたい。
 筆者はほとんどの企業には豊かな創造力と高い技術がある。しかしイノベーションを生み出せないのは、そもそも企業はイノベーション向きにできていないからだ。反復が基本の既存事業と反復できないイノベーションは相容れない。企業を存続させるためには、確実に収益を生む既存事業を大切にせざるを得ない。未知数のイノベーションに人・カネ・モノを割くモチベーションは働かない。しかし筆者は、イノベーションと既存事業を適切に分離し、イノベーションの専任チームを外部人材を中心に構成し、マネジメントすれば企業内で併存できると主張する。「組織の記憶」を消し去ることが、イノベーションを生む秘訣だというのが筆者の見立てである。組織の記憶とは言い得て妙だ。

書籍情報

イノベーションを実行する~挑戦的アイデアを実現するマネジメントから
ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル、吉田利子・訳、NTT出版、p.348、¥2,730

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。