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横田英史の読書コーナー

レジリエンス 復活力~あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か~

アンドリュー・ゾッリ、アン・マリー・ヒーリー、須川綾子・訳、ダイヤモンド社

2013.5.5  12:00 am

 災害や事故・事件のような急激な状況変化に適応できる組織や機関、システムをどうすれば構築できるのか。本書はレジリエンス(resilience)と呼ぶ研究分野をキーワードに、適応力の高い社会の在り方と構築の仕方を論じている。示唆に富む議論の展開と豊富な事例は非常に読み応えがある。今年読んだ書籍ではNo.1だ。ちなみにレジリエンスは辞書的には、「(元気の)回復力・復元力」「障害や誤りが存在しても、要求された機能を遂行し続けることのできる能力」である。
 筆者は冒頭でレジリエンスについてこう述べる。「レジリエントなシステムはいさぎよく失敗する。危険な状況を避け、侵入を察知し、部分的な被害を分離して最小化し、資源の供給源を多様化する。必要とあれば縮小した態勢で稼働し、破壊されると自ら再構築して回復を図る。レジリエントなシステムはけっして完璧ではない。現実はむしろその反対だ。一見完璧なシステムはきわめて脆弱であることが多く、ときとして失敗を伴うダイナミックなシステムはこのうえなく頑強になりうるのだ」。約30ページの序章を読むだけでも価値がある。
 本書の特徴は、自然環境、都市環境、金融システム、個人(脳)、結核菌、テロ組織、電力網など幅広い分野についてレジリエンスに言及している点。例えば第1章では、インターネットや金融市場などを「頑強だが脆弱な(RYF:robust-yet-fragile)」なシステムと位置づける。予測される危険に対してはレジリエントだが、予期せぬ脅威にはきわめて弱い。これらのシステムの脆弱性を増幅するのは複雑さ、集中度、同質性であり、レジリエントを高めるのは適正な単純さ、局所性、多様性、透明性だと筆者は主張する。なかなか含蓄のある指摘だ。
 クライマックスはハイチ大地震の救援プラットフォーム「ミッション4636」。インターネット、ボランティア、オープン・システムがグローバルに機能し、ハイチ大地震の被災者を世界規模で支援した組織だ。筆者はミッション4636が構築される過程を克明に描いている。ここで登場するリーダーは、従来型の豪腕タイプとはまったく異なっているのが興味深い。組織の各階層に自由自在に働きかけ、蚊帳の外におかれたグループを引き込み、関係者が互いに理解し合うための通訳を務めるリーダーという。いろいろと考えさせられる書である。

書籍情報

レジリエンス 復活力~あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か~
アンドリュー・ゾッリ、アン・マリー・ヒーリー、須川綾子・訳、ダイヤモンド社、p.416、¥2,520

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。