第2回 「CASPIAN王子とRFID?」

皆さんは小学生の頃、C.S.ルイスの「ナルニア国ものがたり」の7部作の一部である「カスピアン 王子のつのぶえ」を読まれたことがおありでしょう。カスピアン王子の角笛に呼ばれてナルニアに現れた4人兄弟が、悪に染まったナルニア王国で王子を助け、大活躍する話です。

こちらのCASPIANは (Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering)、すなわち消費者のプライバシーを守る立場の草の根 (grass-roots) 団体です。彼らのHomePageを見ると、スーパーマーケットの企てる顧客のロイヤリティ確保とか得々お買い物CARDとかと戦い、戦略を暴き、消費者のプライバシーを守る、と宣言しています。

・・・どこかナルニア国ものがたりと似たような響きがしませんか。

なにやらイントロが物騒でしたが、RFIDに関する新聞報道が無い日が少ないこのごろですが、ちょっ と前の日経コンピュータ7/14号のP18に以下の記事がありました。

 

「ICタグは必須」、米ウォールマートが宣言

 

2005年1月の実用化を主要取引先100社に通知

 

今年、3Q〜4QにICタグに付ける運搬用パレットの詳しい仕様を固め、2004年にテストを実施。2005年1月から実用化する。まず、主要サプライヤ100社との取引でICタグを本格的に利用する。

 
 

これはすでにネットでは6月に出ていた記事のことです。ネットが早いのは当たり前ですよね。スライドにあるように本当にRFIDや電子棚が必要な理由はいろいろあるようですが、大手が流通実験を大々的に行う宣言に、業界が沸いたものでした。半導体屋の私は、おお、やっと億の単位が現実化する!とひそかに感激したものでした。

しかしながら、後続の記事では関係者は理由をあまり明確に説明せずに計画は中止されました。まちがいなく、プライバシー問題で攻撃されたのです。

元々Wal-Martやジレットは、かのAuto-ID Centerの一員として共同実験の立場にありました。そのAutoID Centerがへまをやったのです。Confidential情報をWebに挙げており、さらにHomeのSearchで "confidential" と打ち込むと、本当にConfidential情報が取れるのです。これをCASPIANが知っていろいろな書類をダウンロードし内容分析をし攻撃したのです

 
 

そこにはこう、書かれています。
Among the "confidential" documents available on the web site are slide shows discussing the need to "pacify" citizens who might question the wisdom of the Center's stated goal to tag and track every item on the planet
こりゃぁダメだ、手の内を暴かれては出直さなきゃぁ・・・。これでは共同実験者の立場もなくなるでしょう。同じようなこと、すなわち大々的実験の宣言と突然の中止は欧州で衣料品のベネトンでありました。このときもCASPIANが猛烈に抗議したと言われています。

ううむ、こちらのCASPIANのお話は、本来の王様である消費者を守り、(経済原理の都合だけを優先する悪)スーパーマーケットと戦うってことでしょうか。でも、私としてはちょっとマッタァですね。正しい使い方、ってありますよね。いかにも得られる利益とリスクのバランスの悪い話で、どこかのいびつなセキュリティポリシーみたいな印象を受けてましたが、皆さんはいかがでしょうか。

今回はちょっと横道にそれましたが、次回はUIDセンターとAutoIDセンターの簡単な比較を試みたいと思います。

 

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>> 第一回 「ユビキタスIDセンター記者会見」

 

自己紹介
1973年に日本電気に入社、以来、2002年に半導体部門が分社されるまで、他の会社に移ったことがないという典型的なサラリーマン。ただ、半導体部門でソフトウェアを志したため、社内ではメインストリートを歩むことなく今日に至る。
その一方、社外には友人が多数、トロンの坂村健先生とも20年来の付き合い。
メールアドレス:h-monden@mud.biglobe.ne.jp