組込みシステム業界では、ここ数年、システムの大規模化や複雑化、機能安全、開発コスト削減、アジア圏を中心に拡大するグローバル市場への対応などに追われてきました。
その結果、海外企業へのアウトソーシングや開発拠点の海外移転、新しい開発手法とツールの導入などが進展してきました。そこにAndroidが登場したことで、従来からの業界の構造や勢力地図がさらに大きく変化しつつあります。EISでは、これらの状況を「組込み開発新時代」と捕え、組込み開発関連企業の事業責任者に今後の対応やビジネス戦略をうかがいます。また、このシリーズを通じて新しい会社や隠れた有望企業などを紹介したいと思います。


祝ETアワード受賞 ソフトウェア分野優秀賞
第3回
「ゲーム機で培った優れたオーディオ、ビデオ再生技術を
汎用マイコンでも活用可能にします!」
〜ユニークな商品名のミドルウェア製品を提供する〜

株式会社CRI・ミドルウェア
営業部組込み分野担当部長 石黒 哲夫さん


株式会社CRI・ミドルウェア ホームページ
http://www.cri-mw.co.jp


─最初に貴社の沿革、概況を教えてください。

当社のルーツは、1983年に設立された株式会社CSK総合研究所(CSK Research & Institute)です。当初は人工知能や音声・映像技術、CD-ROMメディアの研究開発を行っていました。その後、家庭用ゲーム機の音声、映像処理用ミドルウェアを開発、提供するようになり、2001年にセガから独立して現在の(株)CRI・ミドルウェアが設立されています。現在もビジネスの中心はPCを含む家庭用および業務用ゲーム機器向けのファイル・システムや音声・映像処理ミドルウェア製品などでして、当社のミドルウェア製品は膨大な本数のゲームソフトに採用されています。一方、当社は数年前から組込み機器向けのミドルウェアも提供するようになり、組込み総合技術展(ET)にも継続的に出展しています。
特に最近は、比較的、安価な汎用マイコンを搭載した組込み機器でも高品質なオーディオ出力やビデオ再生を実現することを意識して開発したミドルウェア製品、「D-Amp Driver」(ダンプドライバー)、「かるイイ音(かるいいね)」、および「かるエエ像(かるええぞ)」を相次いで発表し、積極的なプロモーションを行っています。今度のET2011でもこれらの製品を展示、デモしますのでぜひ当社のブースに来て頂きたいと思っています。

─最近発表された組込み機器用新製品の特長を簡単に説明してください。

まず、「D-Amp Driver」ですが、これはこれまでマイコンのD/Aコンバータ出力にLPF、オペアンプを接続して実現されていた音声出力の機能を、マイコンのパルス出力からオペアンプを使用せずに、安価なFETを用いてスピーカをダイレクトに駆動する画期的なミドルウェアです。(下図を参照)


従来のD/Aコンバータ出力を使用して構成する方式に比較して部品点数が削減されるためコストダウンできるだけでなく、D/Aコンバータを内蔵していない低価格のMCUでも使用できるのが大きな特長です。これまでは、パルス波に含まれるノイズを除去するのが困難であったために、高品質の音声出力が要求される組込み機器には不向きとされていました。当社ではこの問題をゲーム機用の音声処理で長年培ってきたソフトウェア技術を適用して、解決しました。音量はアンプのゲイン調整ではなく、ソフトウェア制御による電子ボリュームになり、PCMの折り返しノイズを除去するためのLPFの特性確保で悩む必要がなくなります。「D-Amp Driver」はプラットフォームに依存せず、2KのRAMとパルス出力を持つMCUであれば実装可能であり、非常に低価格な8ビットMCUに実装された実績もあります。

RX62Nを使用した「D-Amp Driver」と
「かるイイ音」のデモ用ボード

次に「かるイイ音」ですが、これは当社の主力製品のひとつである、ゲーム機向けのオーディオ・ストリーム再生用ミドルウェア製品、「CRI ADX」をベースにして、低価格のMCU上で良質の音声再生を実現させる目的で開発された製品です。「CRI ADX」はCPUの負担が最小になるように設計されていますが、「かるイイ音」ではこの「CRI ADX」のCODECを各種の汎用マイコンに実装可能になるようにさらに軽量化、最適化してあります。例えば、ルネサス・エレクトロニクス社のRX62N上で単なる圧縮サウンドの高品質での再生だけでなく、複数のサウンド、例えば音声とBGMの同時再生、スローまたは早送り再生、シームレスなループ再生などが可能です。各種の小型計測機器で測定したデータを音声として読み上げたり、各種組込み機器の音声ガイダンスをBGM付きのクリアなサウンドとして出力するなど、これまで考えられなかった新しい用途に応用することが可能になります。前述の「D-Amp Driver」と組み合わせて使用すれば、さらに効果的です。RX62Nに実装した製作記事がCQ出版社のInterface 誌2011年12月号にD-Amp Driverの紹介記事と共に掲載されていますので、ぜひご覧ください。

最後に「かるエエ像」ですが、こちらは低価格の組込み用マイコン上でのビデオ再生を行う目的で開発された製品です。「かるイイ音」と同じように、ゲーム機向けに開発した動画再生用ミドルウェア製品、Sofdecをベースにマイコン用に最適化してあります。VGAは勿論、携帯電話などに使用されるQVGAでも動画をクリアに再生できますので、炊飯器、冷蔵庫などの白物家電や、車載用のディスプレイ、エレベータ、自動販売機、ATM、コンビニ端末、FA機器などの産業機器などに搭載されたマイコンを使って動画を表示させることができます。

─新製品の名前がいずれもとてもユニークですが、何か特別な理由があるのでしょうか?

当社はゲーム機業界では2,300タイトル以上の実績を持っていますが、組込み分野では後発です。これまでも組込み機器にも採用可能な製品は提供してきましたが、ゲーム業界以外のお客様に当社の名前や製品群を覚えて頂くことにとても苦労してきました。今回、汎用マイコン上でも活用可能な製品群を開発した時点で、「組込み機器のお客様の印象に残るようなインパクトのあるネーミングしよう」という提案がマーケティング・チームからあり、営業部門も含む大勢のスタッフの知恵を集めて製品名決めました。
特に「D-Amp Driver」については、展示会などで私がダンプ・トラックのドライバーのような恰好をしてプロモーションすることを前提にしていて、実際に今年のET-WEST 2011から各展示会では写真のような鉢巻、ハッピのスタイルでブースに立って説明しています。某大手半導体メーカー社の宣伝誌にもこのスタイルで掲載されたのには驚きました。

─上記の新製品の拡販に向けてどのようなマーケティング、営業活動を実施していますか?

当社では、ET-WEST/ET2011の他、MCUベンダや出版社主催の展示会やイベントなどに数多く参加して、当社の名前と製品をより多くの設計者に知ってもらうように努めています。そしてイベントでのデモを通じて、いかに高品質の音や映像の再生が実現されるかを体感してもらうようにしています。カタログやウェッブでの情報の記載内容も重要ですが、当社の組込み製品に関しては、やはり実際に音、映像を聴いて、見てもらうのがもっとも効果です。また、各MCUベンダの販売代理店や有力な商社にも拡販をお願しています。
日本の組込み業界の商習慣はゲームソフト業界のそれとは若干異なりますが、ミドルウェア製品の開発を自前で行い、当社の製品が組込まれた機器の販売台数に応じたロイヤリティを収入源とする基本方針は変わりません。当社のミドルウェア製品はこれまで我々が想定できなかったような組込み機器に応用される可能性が大いにありますので、今後もあらゆる機会、人脈、ネットワークを通じて積極的なプロモーションを行っていきます。

─最後に読者にお知らせしたい情報はありますか?

今回、ご紹介したミドルウェアの製品名からもおわかりのように、当社には個性豊かなスタッフが揃っています。当社では公式のウェッブ・サイトの他に、社員のブログを集めたサイト、CRIチャンネルを開設しています。私の「あばしりセブン・チャンネル」を含めた社員10名によるユニークなブログを掲載している他、リクルート情報や各種の有益な情報を会社の公式サイトとは一味違う手法で発信していますので、ぜひご覧ください。

─本日はご多忙のところ有難うございました。貴社のご活躍をお祈りしております。

追記:
CRI・ミドルウェア社のD-Amp Driverは、ET2011のETアワード、ソフトウェア分野 の優秀賞に選出されました。おめでとうございます。

バックナンバー

第1回 ニューラル株式会社 
制御システム部 マネジャー 金田一 勉さん

第2回 ミラクル・リナックス株式会社 
執行役員 営業本部長 原 克己さん

第3回 株式会社CRI・ミドルウェア 
営業部組込み分野担当部長 石黒 哲夫さん