組込みシステム業界では、ここ数年、システムの大規模化や複雑化、機能安全、開発コスト削減、アジア圏を中心に拡大するグローバル市場への対応などに追われてきました。
その結果、海外企業へのアウトソーシングや開発拠点の海外移転、新しい開発手法とツールの導入などが進展してきました。そこにAndroidが登場したことで、従来からの業界の構造や勢力地図がさらに大きく変化しつつあります。EISでは、これらの状況を「組込み開発新時代」と捕え、組込み開発関連企業の事業責任者に今後の対応やビジネス戦略をうかがいます。また、このシリーズを通じて新しい会社や隠れた有望企業などを紹介したいと思います。


第2回
ミラクル・リナックス株式会社
執行役員 営業本部長
原 克己さん



ミラクル・リナックス株式会 ホームページ
https://www.miraclelinux.com/jp/


─まず最初に貴社の業歴、概況を教えてください。

ミラクル・リナックス株式会社は、2000年6月、Linuxサーバビジネスを主軸として日本オラクル、NECなどの出資を受けて設立されました。2007年12月、中国、韓国などのアジア諸国とともにアジア圏での標準化されたエンタープライズLinuxの開発を目的として、Asianux Corporationを設立し、信頼性、安定性、品質を重視したLinuxサーバOSを提供し続けています。

近年では、従来のサーバビジネスに留まらず、企業向け統合監視ツールZabbixのビジネスをはじめ、オープンソース・アプリケーションの開発、サポートにも取り組んでいます。

2008年より、これまでサーバ分野で培ったカーネル技術を生かして組込み事業にも本格参入し、2010年6月には、デジタルサイネージプレイヤー「MIRACLE VISUAL STATION」を販売開始しました。カーナビ、自動販売機、医療機器、映像配信機器などお客様の用途に応じたLinuxを提供しています。
会社は東京都港区芝に所在しています。

─貴社の組込みシステム市場向けビジネス、製品について紹介してください。

デジタルサイネージプレイヤー
「MIRACLE VISUAL STATION」

当社は2008年より組込み市場への参入を開始し、2010年に高い成長が期待されるデジタルサイネージ分野においてハードウェアも含めたデジタルサイネージプレイヤー、「MIRACLE VISUAL STATION」(写真右)を発売いたしました。

「Embedded MIRACLE Digital Signage Edition」が搭載されている「MIRACLE VISUAL STATION」には、Intel Atomプロセッサーの性能を最大限に引き出すように、OS/X11レイヤーをチューニングして独自開発したブラウザが組み込まれています。これらのチューニングにより、フルHDが安定して再生できるようになり、より低コストで高パフォーマンスなデジタルサイネージプレイヤーが実現されています。これらのOSやウィンドウレイヤーを含めたチューニングは、Windowsのようなクローズソース・ソフトウェアでは実現困難であり、当社の技術力を結集した「MIRACLE VISUAL STATION」は、お客様より高い評価をいただいております。既に、ディスプレイ・メーカー様などを経由して初年度より多くの出荷実績があります。

─「MIRACLE VISUAL STATION」の今後の開発計画などを教えてください。

弊社はデジタルサイネージの表現力の機能拡張に注力し、その技術力でお客様のハイレベルな要求を実現していきます。これまでは、エンド・ユーザ、デザイナーが実現したいことが、デジタルサイネージのハードウェア、ソフトウェアの処理能力の制限から実現できていない事例が数多くありました。弊社ではカーネルから手を入れることでその表現の限界を克服し、デザイナーにソフトウェア/ハードウェアを意識しない環境を提供することができています。例えば、静止画の切り替えを重ねてふんわりと表現するクロスフェード機能などはお客様のリクエストから開発し、高級商材のイメージをデジタルサイネージで伝えることができるという高い評価をいただいています。
弊社は今後もデジタルサイネージ用ソフトウェアの開発に注力し、顧客のニーズに応じた開発を進めていきます。また、映像系システムのみならず、お客様の細かな要望に応えたカスタマイズも行っており、これらの開発力は他社にはないものと自負しております。

─今後、どのようなマーケティング、販売活動を行っていますか?

デジタルサイネージプレイヤー「MIRACLE VISUAL STATION」については、実機によるデモをご覧いただくほか、事例の作成、紹介を行い、実績をアピールしています。次に販売パートナー向けの実機講習会を定期的に行い、プレイヤーの特徴を理解していただいています。また、ホームページでは動画などで従来製品との機能比較など、「MIRACLE VISUAL STATION」の特性を説明しています。
またこれまで実績を強調することにより、ディスプレイ・メーカー様などを中心に販売パートナーを拡大していきます。さらにサイネージソフトウェアの個別カスタマイズを受託することで、ユーザーのニーズに応えると同時に利益率の向上を目指しています。

さらに、PCで使えるAndroidのUSBブートイメージを無償提供し、組込みLinuxの技術力をアピールしています。4ヶ月で6000を超えるダウンロードが行われています。
[紹介ページURL]
https://www.miraclelinux.com/jp/online-service/download/embedded/index

─今後、成長が期待される海外市場、特にアジア市場への取組みはどうされていますか?

当社のデジタルサイネージ用ソフトウェアの多くは、台湾のハードウェアメーカーとのアライアンスにより開発しております。2011年6月には上海デジタルサイネージ・ショーにも台湾企業と共同で出展しました。また中国の無錫には当社の出資会社、Asianux Corporation(アジアナックス)の組込み開発部署もあり、現地での市場開拓を行っています。さらに中国市場においては、ディスプレイ・メーカーなどと協業し、今後さらに大きなビジネス展開を図る計画です。また、Asianux Corporationの参加国であるベトナムなどにおいても、今後デジタルサイネージの販売チャネルを開拓していく計画です。
開発拠点については、Asianux Corporationをはじめ、海外企業との協業による開発を今後も継続して行っていく予定です。

─最近の日本市場の動向をどう捕えていますか?

デジタルサイネージ市場に関しては、メディアの露出や調査会社の資料などからも需要の伸びが顕著に見込まれておりますが、震災後はより省電力や災害関係の情報端末としての機能など、要件の変化が見られます。また、導入先については、官庁や教育現場、観光施設などの需要が一段落し、将来的には流通・店舗での需要増加を見込んでいます。

他の組込み製品に関しては、アプライアンス製品の需要が高まっており、今後も継続して開発・製品提供を予定しています。

─貴社において期待される新製品、開発計画などを教えてください。

デジタルサイネージ製品のプロモーションを通じて、カーナビゲーション、医療機器などの開発案件の相談を多くいただくようになりました。同一バージョンに対する長期サポートとパッチ提供などを含む個別サポートが強いご支持につながっているものと考えております。今年の冬に発売される弊社の新しいLinuxはCentOSとの互換性を全面に打ち出し、特殊機器分野でのマーケット拡大を狙います。

─その他、日本のユーザーに訴えたいことはありますか?

ミラクル・リナックスでは、OSや開発キットの提供にとどまらず、組込み技術やEmbedded MIRACLEにより、お客様のご要望に合わせて、細部のカスタマイズやOS起動の高速化、専用Webブラウザ、メディアプレイヤーなど、垂直統合型のサービスを提供しています。
弊社はIntel Atomプロセッサー向け、ARM、MIPS、PowerPCアーキテクチャ向けなど、幅広いプラットフォームでの開発実績を持っておりますので、当社のこれらの実績や設計資産を大いに活用していただきたいと思います。


─本日は有難うございました。貴社の組込みシステム市場でのご活躍を期待しております。

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