イベント・リポート NO-26
Embedded System Conference
Silicon Valley 2009 No-2

リポータ:EIS編集部 中村正規

■Microchipと競ったのはAtmel

今年のESC Silicon Valleyでもっとも目立った出展社がMicrochip Technologyであったことは、NO-1で述べたが、このMicrochip社に隣接したブースに出展して挑戦的な展示を行ったのがAtmel社であった。
ご承知の通り、MicrochipとAtmelは8ビットMCUの分野での宿命のライバル関係にある。電子工作を行う日本のホビーストの中にもMicrochipのPIC支持派が多数いる一方で、AtmelのAVR愛好家も多く、秋葉原やネット上でもPIC対AVRの構図が見てとれる。昨年、Microchip社はOn Semiconductor社と共にライバルのAtmel社に買収提案を行って、我々を驚かせた。

Microchip製品との違いを示す比較表

この買収提案はAtmel側の拒否にあって成功しなかったが、両社関係者の間に遺恨が残ったのは確かであろう。 Atmelとの比較を大きなグラフで示したMicrochipのブースに対して、隣接したAtmelのブースに設置された大型モニタには、Microchip製品に対するAtmel製品の優位性を示す何枚かの比較表が大々的に写し出されていた。
このように、ライバルどうしが隣接したブースで出展し、お互いに比較表やグラフを使って自社製品の優位性を示す光景は、日本の展示会では勿論のこと、過去のESCでもあまり目にしたことがない。

Atmelのブースでは、各種MCUと開発キットを中心に展示していたが、昨年、Quantum Research Group 社を買収して手に入れたタッチセンサとMCUを組み合わせたソリューションの展示にも力を入れていた。

記念撮影サービスに応じる
AVRロボット

これは、ライバルのMicrochip社がmTouchと呼ばれる静電容量式タッチセンサを実現するPICソリューションを強調していることを十分に意識したものだ。Microchip社のmTouchに対抗してAtmelが命名したこのタッチセンサ技術は、Qtouchと呼ばれる。
このように、どこまでも張り合う2社だが、両社がしめし合わせたかのように、4月末までに発表予定の新製品プレスリリースを先行してメディア・センタに置かれたプレス・キットの中に入れていたのには、びっくりした。Atmelのブースには、巨大なAVRロボットが現れ、来場者との記念撮影のポジを無料で印刷して渡すサービスを行っていた。このロボット、勿論、ソフトウェア搭載のメカで動く本物のロボットではなく、中に人間が入った客寄せロボットである。

■ARMコアのプロセッサ・ベンダ

Intelがいない今年のESC Silicon Valleyでその他に目立ったプロセッサ・ベンダとしては、ARMコアのプロセッサ・ベンダである、NXP SemiconductorとLuminary Microの両社をあげなければならない。不況の影響から経費を削減した簡素なブースが多い中、NXP Semiconductorのブースは写真のように目立つものとなっていた。同社のブースでは従来からあるARM Cortex-M3コア・ベースのプロセッサだけでなく、超低消費電力で実装サイズの小さなARM社のプロセッサ・コア、Cortex-M0を採用した新しいプロセッサのデモも行われていた。ESC直前に発表されたこのCortex-M0ベースの新しいプロセッサ、LPC1100は、Cortex-M0を採用した世界最初のデバイスとなったとのことで、来年初めまでには製品の出荷開始が予定されている。Cortex-M0コアは消費電力が小さく、チップ上の占有面積が小さいために低価格が実現できることから、NXPでは、これまで8ビット、16ビットのMCUが使用されていたバッテリー駆動のセンサ・ネットワークや携帯機器の市場を狙うとのこと(参照:NXPの発表資料)。

 

NXP Semiconductor社のブースの全景と、Cortex-M3とM0コア・プロセッサの展示風景

一方、最近、ARMのCortex-M3コア・ベースのMCUで積極的なマーケティング活動を行っている、新興半導体ベンダ、Luminary Micro社も存在感を示していた。同社は今回のESCに合わせて興味深い発表を行った。そのひとつが、当サイトでも速報したCortex-M3ベースのStellarisファミリMCUのROMにReal-Time OS(RTOS)のカーネルを内蔵させた、LM3S9B96という新製品だ。

LM3S9B96の内部アーキテクチャ

内蔵されたのは、IEC61508 の機能安全規格にも準拠している、WITTENSTEIN High Integrity Systems社のリアル・タイム・カーネル、SafeRTOSである。最近、多くのOEMユーザは、MCUベンダに使いやすい統合開発環境の提供だけでなく、各アプリケーションに最適化したリファレンス・デザイン、それを実現するためのミドルウェア、さらに試作・評価を可能にするボードやモジュールなどを含む、ターン・キーに近いソリューションを求めるようになっている。Luminary Micro社は、ブラシレスDCモーター制御回路など、Cortex-M3ベースのMCUを使ったアプリケーションのレファレンス・デザインとボードを積極的に提供している。RTOSカーネル内蔵のMCUを持つことで、今後さまざまなアプリケーションをターゲットにしたリファレンス・デザインの提供がさらに容易になるかもしれない。
また、同社はこのLM3S9B96を搭載した評価/開発キット、Stellaris DK-LM3S9B96も併せて発表した。この開発キットには下の写真のように、USBやイーサネットとのインタフェースだけでなく、インチのタッチ・センサ・インタフェース機能を備えた3.5インチのQVGA LCDディスプレーも付属している。日本で、Luminary Micro社の製品は、アロー・ユーイーシー・ジャパン(株)で販売されている。

Stellaris DK-LM3S9B96開発キット

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