第五十ニ章

「エンベデッド技術者を目指すならハードも学べ!」

東京都立産業技術研究所
製品開発部 制御システム研究室
坂巻 佳壽美

 公務員の戯言!などと一笑に付さないで下さい。私は、本当に心配しているのです。誰が言ったか知りませんが、なぜ『エンベデッド技術は日本のお家芸!』などと言われるのでしょうか? 私は、そこに匠があるからだと思っています。

職場の概要

 当所は、都内の中小企業の方々へ産業技術の面から支援することを目的とする公的な試験研究機関です。中小企業の皆さんの抱える技術的な問題について、相談・指導、依頼試験、開放試験、研修の開催などをつうじて、その解決にむけて支援しています。
詳しくはHP(http://www.iri.metro.tokyo.jp/)を参照してください。

私の最近の業績

 これまでは、システムの高信頼化という分野を指向してきましたが、ここ数年前からFPGAを採用して高機能で高速化するというものが多くなってきています。特に、今取り組んでいるフィルタリング装置に至っては、10Gbpsへ挑戦するという無謀とも思える目標を掲げています。
具体的な研究活動テーマとしては、 平成16年度〜「パターンマッチング回路の超高速化とフィルタリング装置への応用」 平成16年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(経産省) 平成15年度「産業用装置を高信頼化するための監視装置」産学公共同研究などがあります。

4004のデータブックが進路を決めた

 私が今の職場へ入ったのが1974年。そして、あるセミナーで名刺と交換に入手したのが、ぶ厚い4004のデータブックでした。それから、30年、マイコンと共に年をとり、今その進化に付いて行けず、徐々に取り残されつつある自分の姿を実感しています。同じ職場に30年もいれば、それなりの処遇を受けているのが一般的と思われますが、50を超えて未だにヒラで頑張っているというのも、役所ならではではないでしょうか?

エンベデッドには特許が絡む

 ところで今、「組込み」が「エンベデッド」と呼び方を替えて、大変なブームを迎えています。考えてみれば、私がかかわってきたこの30年間は、すべてがエンベデッド関連だったと思われます。
多くの権威ある方々が、「組込みソフトウェア」の重要性を指摘し、技術者育成が始まりました。しかし、私の体験してきた「エンベデッド」では、どのような構成のコンピュータをどのように組み込むのが効果的かを決めるのが最初だったように思われます。そこでは、センサやアクチュエータを用いたI/Oが重要な役割を担うことになるため、多くの場合は特許が付随していました。この辺に、エンベデッドが日本人に向いているといわれる理由があるのかもしれません。

私がイメージしているエンベデッド

温故知新(1)

 一口に「エンベデッド」といっても、システム構成はピンキリです。古いIntel社のデータブックに、マイコンを5階級に分類した表が載っていたのを思い出しましたが、今でもそれは通用するのではないでしょうか? エンベデッドにかかわる立場が異なると、イメージも異なると思われますが、それらについての議論が成されないままに、いろいろなことが決まっていきそうです。いずれにしても、エンベデッドで失敗すると、大事故が起きたり、大損害を招いたり、人の命を脅かすことにさえなりかねません。このような可能性を含むエンベデッドにかかわる技術者には、それなりの資質が求められて当然な時代になったのではないでしょうか?

Intel社が提唱していたマイコンの5階級

温故知新(2)

 そういえば、かなり昔の話になりますが、インターフェース誌(CQ出版社)の1990年4月号にエイプリルフール記事として「速報:米国、マイコン技術者の免許制度を導入か?」を書いたことがありました。ところが、この内容には思わぬ反響があって、編集部がてんてこ舞いをしたという後日談が、同誌1996年4月号「技術立国になるには」に、当時のインターフェース編集長(山本潔氏)によって書かれています。
拙文につきましては、CQ出版社から了解をいただきましたので、文末に掲載させていただきます。あくまでも作り話ですので、誤解のないようにあらためてご注意ください。

なぜハードウェア技術を流出させるのか?

 

 大田区蒲田地域からものづくりが姿を消した!と言われてからだいぶ経ちます。匠の業は、一度無くなると復活するのが容易でないことも良く知られているところです。バブルの頃、日本の企業はマイコン基板の製造を止めてしまい、台湾などからの輸入に切り替えました。ソフトウェアで付加価値をつけるのだ!と言っていた時代です。
今、ハードウェア製造は中国を舞台にして新たなる展開が始まっているようです。またしても、ハードウェア技術をよその国へ流出させているように見受けられます。手遅れとなる前に、日本の若手技術者にこそ、ハードウェア技術の匠を伝承していくべきではないでしょうか?

新しいエンベデッド技術の流れ

 エンベデッド用として手頃なプロセッサが、FPGAのIPとして提供され始めました。これを利用すると、製造中止や在庫を心配する必要が無くなります。また、要求仕様にピッタリ合ったワンチップマイコンを1個から入手することが可能となります。センサとアクチュエータを付加し、それらを活かしたソフトウェアを組み合わせることによって、理想のエンベデッドシステムを構築することが出来るでしょう。

ハードウェアの存在をお忘れなく!

 「C言語によるFPGA設計」などという手法が登場し、ハードウェア技術なのかソフトウェア技術なのか、決め兼ねる状況となっていることは事実です。ただ、エンベデッドにおいては、ソフトウェアに快適な活躍の場を提供するためにも、最適なハードウェアの設計開発が必要のです。どうぞ、組込みハードウェアの重要性を忘れないでください。
どうしてもこのことを多くの皆さんにお願いしたくて、この欄に出させていただきました。最後まで読んでくださいまして有難うございました。

(インターフェース誌からの引用・クリックすると拡大表示されます)