Embedded業界紳士録

第三十一章 
パーソナルメディア
取締役 企画本部長 松為 彰


組込みシステムの多漢字化へ



パーソナルメディア
取締役 企画本部長 松為 彰


パーソナルメディアでは、多漢字をサポートするパソコン用OSとして 「超漢字」を開発・販売しています。
多漢字とは、分かったような分からないような言葉ですが、 簡単に言えば、たくさんの漢字が使えることです。
現在の日本で使われている漢字は、人名や地名などの固有名詞を除けばせいぜい2000字程度なのですが、この人名や地名というのが曲者(といっては失礼ですが)で、JIS第1・第2水準の約6000字はもちろん、Unicode 2.0の約20000の漢字を使っても表現できない人名が少なくありません。
今年の夏からは住基ネットがスタートし、そのプライバシーやセキュリティの問題に注目が集まりましたが、
人名用漢字の表現に関してもいろいろな苦労があったようです。
具体的には、JISやUnicodeで表現できない人名用漢字のうち、ある程度頻度の高いもの(吉野屋の「吉」:通称ツチ吉など)には共通のコードを割り当てたものの、それに漏れたレアな人名用漢字は画像イメージにより情報交換を行うという仕組みになっています。
多漢字の話題に関しては、CQ出版の「インターフェース」誌(2002年12月号)にも寄稿しておりますので、よろしければご覧ください。

さて、私自身は大学でリアルタイムOSの研究を行い、当時ちょうど始まりつつあったITRONプロジェクトにも携わっていました。当時のコンピュータは、多漢字どころか、英数字と、せいぜいカタカナくらいしか使えない状態でしたから、将来の多漢字問題など意識するはずもなく、割り込みハンドラとタスクとの関係とか、CPU(当時は86と68K)による割り込み処理の違いなど、主にハードウェアとOSの間を埋める部分を検討していました。
これは、1980年代のはじめ頃の話です。

既に当時も、マイコン内蔵の電化製品というのは市販されており、「組込み」ということばも使われていました。
しかし、大きな工業製品は別として、コンシューマ向けの家電製品に内蔵されているマイコンというのは、ほとんどが4ビットであり、OSもまず使われていませんでした。
この世界にOSという概念を持ち込み、標準化によって少しでもソフトウェアの生産性を上げようとしたのが、ITRONだったのだと思います。

大学卒業後、パーソナルメディアに入社してからは、組込みやリアルタイムOSの世界からは少し離れて、ウインドウシステムやGUIの研究開発に携わるようになりました。
その成果を使って商品化したものが、パソコン用のBTRON仕様OSである「1B」シリーズや「B-right」シリーズなのですが、国産OSのメリットをさらに活かすべく、多漢字機能を追加したものが、冒頭に書いた「超漢字」です。

2002年になって、組込みシステムの新たな標準プラットフォームであるT-Engineプロジェクトが始まり、私自身も超漢字に加えてT-Engineを担当することになりました。私としては、若いときにITRONに携わってから18年を経て、再び組込みの世界に近づくことになったわけです。
18年前と現在とを比較すると、リアルタイムOSの基本機能があまり変わっていない(変わりようがないのかもしれませんが)と思われる半面、CPU性能やメモリ容量などの半導体技術は劇的に進歩しました。
また、文字の処理能力に関しては、18年前には漢字どころかひらがなもまともに扱えない状態でしたが、現在では漢字が使えるのは当たり前で、コンパクトな携帯電話でも高度なかな漢字機能を備えておりますし、多漢字関連の機能についても、「超漢字」をはじめとする実装例が出てきています。

今後は、「超漢字」の技術を組込み分野にも適用して、組込みシステムの多漢字化を進める時期にさしかかっているものと思います。
人名用漢字を正しく表示する端末とか、豊かな文字表現のできる電子ブックとか、組込みシステムの用途の拡大につれて、多漢字機能の必要な場面も増えています。
そのための重要な役割を担うのがT-Engineだと思います。

「組込み」と「多漢字」 ― 最後は、私が関わってきたこの2つの分野を強引に結びつけたような結論になりましたが、この2つは、一見関係なさそうでいて、実は共通点もあるのです。
まず、どちらも日本的、ないしはアジア的なものだということです。
家電やAV機器、携帯電話に代表されるような、高機能でコンパクトな組込み機器は、その多くがアジアで生産されていると思いますが、その背景には東洋的な繊細さや複雑さがあり、漢字と同じアジアの文化が感じられると言えば言いすぎでしょうか。
組込みシステムも漢字(という文字)も、複雑で細かいものをきちんと組み合わせることによって完成するという点では共通であり、その背景にはアジア的な文化を感じるのです。
もう1つの共通点は、「組込み」がITRON、「多漢字」がBTRONと、いずれもトロンプロジェクトのターゲットになってきた点です。
この2つのターゲットは、今後、T-Engine上に統合され、ユビキタスコンピューティングの重要な要素として
活用されていくことと思います。

パーソナルメディアが「組込み」と「多漢字」の2つの面からこの業界に貢献できるように、頑張りたいと思います。

 
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